【2026年版】職場の熱中症対策|暑熱順化の進め方と義務化対応チェックポイントを解説
2026年夏季の平均気温は全国的に平年より高くなる見込みで、最高気温35℃以上の「猛暑日」や、40℃以上のいわゆる「酷暑日」への警戒が求められています。特に身体が暑さに慣れていない5月・6月からの早期対策は、企業のリスク低減において極めて重要です。
また、2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則により、一定の暑熱環境下での熱中症対策が企業の法的義務となりました。さらに2026年3月には、厚生労働省から「職場における熱中症防止のためのガイドライン」が新たに策定されています。(同ガイドラインは、法令上の義務に加え、事業者が熱中症リスクに応じて選択することが望ましい具体的対策を体系的に示したものです。)本コラムでは、熱中症対策の鍵となる「暑熱順化」の進め方と、労務担当者が確認すべき義務化対応のチェックポイントを要点に絞って解説します。
熱中症の重症度分類が「Ⅰ度~Ⅳ度」に見直されました
熱中症は、高温多湿な環境下で体温調節がうまく働かなくなり、体内に熱がこもった状態を指し、屋内・屋外を問わず発症します。従来、重症度はⅠ度~Ⅲ度に分類されていましたが、日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」で最重症群としてⅣ度が新設され、厚生労働省が2026年3月に公開した「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」にも反映されています。
| 重症度 | 主な症状 | 対応 |
|---|---|---|
| Ⅰ度 | めまい・立ちくらみ、こむら返り、顔面蒼白、吐き気など | 冷所で安静、身体冷却、水分・塩分補給、見守り。改善しなければ医療機関へ |
| Ⅱ度 | 頭痛、めまい、倦怠感、イライラなど | 医療機関での診察が必要 |
| Ⅲ度 | けいれん発作、意識障害、身体が熱いなど | 積極的に身体を冷やし、入院治療が必要(直ちに119番) |
| Ⅳ度 | 意思疎通ができない、深部体温40℃以上 |
Ⅱ度以上の症状がみられる場合や、Ⅰ度でも症状が改善しない場合は、直ちに医療機関への搬送が必要です。
対策の鍵を握る「暑熱順化」の進め方
熱中症による労働災害は真夏の8月だけでなく、身体が暑さに慣れていない5月下旬~6月にも急増する傾向があります。身体を暑さに慣らす「暑熱順化」は、熱中症予防において最も効果的な手法のひとつです。
1. 順化期間の目安と「非順化者」として扱うべき対象者
暑熱順化は、7日以上(可能であれば2週間程度)かけて段階的に行うことが推奨されます。次のような従業員は順化が不十分であることを前提に、作業負荷や休憩を調整した管理が必要です。
| ① | 気温が急上昇した時期に高温多湿な作業場所で作業を行う従業員 |
| ② | 高温多湿な作業場所での作業に従事させる入社したての従業員 |
| ③ | 長期休暇や配置転換等で暑熱作業から離れていた後、復帰する従業員 |
| ④ | 短期間・単発で暑熱作業に従事する作業者(スポットワーカー等) |
2. 順化は「失われる」ことにも注意
順化した身体でも、暑熱環境下での作業が中断すると4日後には顕著な喪失が始まり、3~4週間で完全に失われます。連休明けの初日などは、ベテラン作業員であっても非順化者として扱い、休憩時間を通常より長く設定するなどの配慮が求められます。
3. 日常生活でできる順化トレーニング
暑熱順化の鍵は「適切な発汗」です。ウォーキングや軽い運動、シャワーで済ませず湯船につかる入浴など、日常の習慣を通じて汗をかきやすい身体へ切り替えていくことが有効で、数日から2週間程度で効果が定着するといわれています。具体的なトレーニングの目安(時間・頻度)は、厚生労働省「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」に掲載されています。近年は厳しい暑さが長引くため、9月頃までは従業員への声掛けを継続することをおすすめします。
「熱中症対策の義務化」への対応チェックポイント
2025年6月1日より、WBGT(暑さ指数)28℃以上または気温31℃以上の場所で、継続して1時間以上または1日4時間を超えて行われることが見込まれる作業(熱中症を生ずるおそれのある作業)について、事業者には次の2項目が義務付けられています。義務を怠った場合は罰則の対象となる可能性があります。
- 報告体制の整備と周知:熱中症の自覚症状がある作業者や、そのおそれのある作業者を見つけた者が報告するための体制を整備し、関係作業者へ周知すること。職場巡視やバディ制、ウェアラブルデバイス等の活用により、症状のある作業者を積極的に把握することも推奨されています。
- 重篤化防止手順の作成と周知:緊急連絡網・緊急搬送先の連絡先や所在地、作業離脱・身体冷却・医療機関への搬送など重篤化を防止するための実施手順を作成し、関係作業者へ周知すること。
いずれも作業が行われる前に整備・作成と周知を完了させておく必要があります。一度周知された体制は、作業内容や担当者に変更がないかぎり毎日伝え直す必要はありませんが、暑さが予見される時期には余裕を持った事前の備えが重要です。(新たに作業へ加わる者、スポットワーカー、交替勤務者などには、作業開始前までに個別に周知する必要があります。また、連絡先や手順を変更した場合は、改めて周知してください。)
新ガイドラインのポイント:「着衣補正後のWBGT値」でリスク評価
厚生労働省が2026年3月に策定した「職場における熱中症防止のためのガイドライン」では、WBGT値の実測に加え、作業環境や服装を考慮した「評価」を行うことが求められています。ポイントは次の3点です。
- リスク要因の特定:「体内の熱が逃げにくい要因(熱放散の阻害)」(高温多湿な作業場所、連続作業、通気性・透湿性の低い衣服や保護具など)と「体温が上がりやすい要因(熱産生の上昇)」(身体作業負荷の大きい作業)の両面から特定します。
- WBGT値の把握:日本産業規格 JIS Z 8504 または JIS B 7922 に適合したWBGT指数計を準備・点検します。
- 着衣補正:実測したWBGT値に、着用する衣服に応じた「着衣補正値」を加算して評価します。たとえばフードなしの単層の不透湿性つなぎ服は+10℃の補正となるため、実測値が20℃でも評価値は30℃となり、基準値を超える可能性が高まります。単なる測定ではなく「着衣補正後の数値」で判定することが実務上の重要ポイントです。
そのうえで、労働衛生体制の確立、作業環境管理(WBGT値の低減、休憩場所の整備)、作業管理(作業時間の短縮、暑熱順化、プレクーリング、水分・塩分摂取、服装による身体冷却、巡視)、健康管理(作業前の体調確認、持病のある従業員への産業医連携)、労働衛生教育、異常時の措置といった対策の中から、自社のリスク評価に応じたものを選択・実施し、定期的に振り返ることが望まれています。詳細な対策例や着衣補正値の一覧は、以下のガイドラインをご確認ください。
参考|厚生労働省「職場における熱中症防止のためのガイドライン」(PDF)
参考|厚生労働省「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」
おわりに
職場における熱中症対策は、従業員個人の努力に委ねるのではなく、企業が「仕組み」として構築すべき取り組みです。2025年6月の義務化から1年が経過し、対策の実効性が問われるフェーズに入っています。リスクを適切に把握し、効果的な対策を進められるよう準備をおすすめします。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 熱中症対策の義務化は、屋外作業のある企業だけが対象ですか?
A. いいえ。対象は「WBGT28℃以上または気温31℃以上の場所で、継続1時間以上または1日4時間超が見込まれる作業」であり、屋内・屋外を問いません。空調のない工場・倉庫・厨房なども該当し得ます。なお、これに該当しない作業でも、作業強度や着衣の状況によってはリスクが高まるため、準じた対応が推奨されています。
Q2. 義務化で求められる対応は、具体的に何をすればよいですか?
A. 大きくは「熱中症(のおそれ)を報告する体制の整備と周知」「緊急連絡網や搬送先、作業離脱・身体冷却・搬送等の実施手順の作成と周知」の2点です。いずれも該当作業の開始前までに完了させておく必要があります。
※本コラムの内容は執筆時点の法令・公表情報に基づいています。その後の法改正等により取り扱いが変更される場合がありますので、最新の情報は厚生労働省等の公式サイトでご確認ください。
ご不明な点がございましたらお気軽にご連絡ください。
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